《受託研究報告書》
第23回全国農協大会議案の分析
はじめに―分析にあたって…1
T.財界・農政の農協「改革」のなかの「大会議案」…3
U.米改革戦略と営農・販売対策…13
V.経済事業改革とそのあり方…20
W.経営健全化対策と組織基盤拡充対策…28
X.地域農業と協同運動の再建をめざした農協改革の課題…33
2003年9月
農業・農協問題研究所
はじめに─分析にあたって
この報告は全農協労連からの受託による「第23回全国農協大会議案の分析」の研究報告である。受託にあたって本研究所では受託研究班を組織するとともに、関係機関職員のヒアリングをもつほか、受託研究班を中心に在京関係会員等による研究会を重ね、また8月20日開催のシンポジュウム「第23回全国農協大会にもの申す」の討論をふまえ、分析・検討をすすめてきた。
分析にあたって重視したのは、次の点である。
一つは、今回の全国農協大会議案「『農』と『共生』の世紀づくりをめざして─JA改革の断行」(以下「大会議案」)は、経済財政諮問会議や総合規制改革会議、そして農水省の農協のあり方研究会での農協改革論議の枠組みのもとで検討がすすめられ、これまで以上に政府・財界と農水省、農協中央の三者の深い関係のもとで策定されたものである。そのことをふまえて、それらの改革論議の枠組みの全体を明らかにするなかで、「大会議案」の性格とその位置をつかむ必要があること。
二つは、「大会議案」の主要な柱に位置づけられている「」安全・安心な農産物の提供と地域農業の振興」と「組合員の負託に応える経済事業改革」にかかわって、「大会議案」と平行して策定・論議され、「大会議案」の内容ともいえる「JAグループの米事業戦略」と「経済事業改革指針」を、「大会議案」と一体のものとして分析すること。
三つは、これらをふくめて、「大会議案」が示す方向が、これからの農協とその関連職場の大きな転換を意味するものであることをふまえ、問題の指摘や批判と同時に、どのような方向を対置していくべきか、真の改革の方向を明確にしていく努力をすること。
報告は、以下の構成でとりまとめた。
Tは、「大会議案」の策定の背景となる政府・財界の農協改革論議をとらえることを通じて、「大会議案」の性格と位置づけを検討したものである。「大会議案」ではT(情勢)U(課題)V(方向)W(最重点課題)までをあつかった。
Uは、「米事業改革戦略」をはじめ、営農・販売事業にかかわる改革方向を検討したもので、「大会議案」のX(重点実施事項)の1を対象としている。
Vは、経済事業改革をその「指針」とあわせて検討したもので、「大会議案」のX(重点実施事項)の2が対象である。なお、経済事業は販売事業も含むことから、分野としては前章の対象とするところと重なる部分があるが、ここでは購買事業を中心とし、基本的には「大会議案」での扱いに沿うこととした。
Wは、農協全体の経営健全化対策と組織基盤拡充対策を検討したもので、「大会議案」のXの3並びに4を対象としている。「大会議案」では付け足し的な位置づけにあるが、真の改革に向けては、もっとも重視すべき基本にかかわる分野だといえる。
Xは、「大会議案」の検討を通じて、真の改革に向けて対置すべき基本的な視点を整理したものである。
「大会議案」の分析は、農協解体とまでいわれるこんにちの農協の置かれた位置をあらためてとらえなおし、地域と職場からの真の農協改革をすすめるうえで必要な視点を明らかにするためのものである。なお解明しなければならない点も少なくないと思われるが、運動を通じて、より豊かなものとなることを願いたい。この報告が、そうした地域と職場の運動にいささかなりとも力になれば幸いである。
なお、報告書中で「大会議案」とあるのは、「組織協議案」である。
また農水省の農協のあり方研究会の報告書「農協改革の基本方向」は「報告書」、同省の「米政策改革大綱」と「米政策改革要綱」は、それぞれ「大綱」「要綱」、総合規制改革会議の第二次答申は「答申」、大会議案とともに提起された「JAグループの米改革戦略」と「経済事業改革の指針(組織協議案)」は、それぞれ「米戦略」「指針」と略記する。
T.財界・農政の農協「改革」のなかの「大会議案」
はじめに
「大会議案」の構成は、T情勢、U課題、V方向、W最重点課題、X重点実施事項、となっている。このうち本章が担当するのは前半のW章までである。Tについては既にひさしく大会議案から本格的な情勢分析は消えている。そしてU以下は、同じテーマをより詳細化していくという重ねモチ的な構成であり、したがって内容的には次章以下でのXの分析と対象が重複する。
他方で、今回の大会議案は、折からの経済財政諮問会議、総合規制改革会議、農水省の農協のあり方研究会に踵を接して決定された点が、これまでと大きく客観条件を異にする点である。すなわち財界・官邸・農水省の農協「改革」のなかの農協大会であり、組織協議案である。
そこで本章では、後者の側面に焦点をあてて分析する。
1.大会議案の性格
(1)大会議案の性格
「大会議案」のタイトルは、前回大会の「『農』と『共生』の世紀づくりに向けて」の「向けて」を「めざして」に変えただけで、「JA改革の断行」の副題を付けたのが新しいといえば新しい点である。「後は実践あるのみ」ということだろうか。
とすればそこには二つの問題がある。第一は、課題達成が遅れた、できなかった理由の第一として「JA段階まで浸透しておらず、自らが決めた大会決議を実践するという認識をJAグループ一体として持てなかったこと」とホームルームの反省文のようなことが書かれているが、問題は「なぜ持てなかったのか」である。
結論的にいえば、それは大会のもち方なり協議案の内容がいくら組織協議の形式を整えたとしても、本質的に全国一律方式の上意下達型の内容になっており、ボトムアップでないからである。そもそもネットワークをコーディネートするのが現代組織の主流となっているなかで、農協のような旧来型のピラミッド型マンモス組織がどうサバイバルできるのか、そのためにどんな工夫が必要なのかが固有にきびしく問われているのに、その自覚がまったくない。
第二は、この三年間の農政や社会との関わりの状況激変に敏感でない。偽装表示問題や無登録農薬使用問題には触れられているが、農協が決定的に消費者の信頼、「共生」を裏切ったことの問題性に対する正面からの分析・反省は弱い。
またこの三年間の特徴である財界・官邸の農協攻撃に対して主体的にいかに対処するかのアピール姿勢に欠ける。Tのトップに「WTO農業交渉のゆくえと米改革への対応」があげられているが、Wの最重点課題ではWTO農業交渉はすっぽりと落ち、Xのなかで触れられるに過ぎない。しかも経営安定対策要求との抱き合わせである。『朝日新聞』等が報じているのは、まさに「WTOでの関税引き下げを前提として農政が経営安定対策を検討している」ということであり、経営安定対策はすでにWTOの負け戦対策になっている点がまったく見ぬかれていない。
農政運動組織としての農協のあり方は主体的には消えたといってよい。
協同組合とは本来、組織・運動と事業・経営との矛盾的統合体であり、農協の農政活動が独自の農民運動を代替してきた日本では、とりわけ前者の面での農政活動が欠かせない。しかるに協議案は、農政の枠組を所与として、自らはその枠内での事業・経営としての 「JA改革の断行」に専念するという基本スタンスで、組織についてはXの末尾でつけ足し的に触れるに過ぎない。
事業・経営体と組合員組織との関係も、「農協経営がいかに組合員の負託に応えるか」「組合員にいかにメリットを還元するか」の関係としてとらえられている。すなわち組織・運動との関係で事業構築していくという相互関係ではなく、経営が構成員にいかに経済的メリットを付与するかという一方的・請負的・恩恵的関係としてとらえられている。生協の実践に学んで「組合員の声を聴く」ことが強調されているが、それもたんに「聴く」関係としてしかとらえられていない。農協の事業不振も、たんに景気悪化や競争激化といった与件変化だけでなく、農協事業と組合員との関わりという根本のところに原因を探るべきである。
(2)農協「改革」の経緯
現在の農協「改革」は経済事業「改革」を主体としたものである。全中の担当者は、同改革は、総合規制改革会議や農水省の「外圧により改革のとりくみが迫られているとの認識がある。しかし、JAグループをめぐる近年の環境をみると、経済事業の改革はみずからのとりくみとして、主体的にとりくまねばならない課題である」(甲斐野新一郎「JAグループの経済事業改革」『農業と経済』2003年8月号)として、信用・共済によって経済事業の赤字体質をささえきれなくなること、経済事業における競争の激化、経済連の全農統合メリットの発揮の必要性を掲げている。
要するに、経済事業「改革」が農協それ自体として内在的に求められているという整理である。それに対して「報告書」は、このような農協経営に関する指摘に加えて、「他方、政府の経済財政諮問会議や総合規制改革会議においても、農協改革に大きな関心が向けられており、広く国民の声を反映した改革を遂行し、国民各層から評価される農協系統となることが強く求められている」としている。諮問会議や規制改革会議は「国民の声」「国民各層」というよりも「財界」の声だといえるが、ここに端的に今日の経済事業改革の直接的契機が述べられているといえる。
かくして農協系統の経済事業「改革」については、組織内の必要性を底流にもちながらも、財界・官邸からのにわかな問題提起を直接的契機としたものであり、それに農政独自の事情が加わり、農政のフィルターを通じて具体化したものと整理できよう。
このような財界利益と農政の都合で農協を変えようとする動きに真っ向から立ち向かっていない「大会議案」は、いってみれば降伏文書のようなもので、それ自体あまり分析に値するものではない。そこで次に「大会議案」の外枠をみていく。
2.財界・官邸の農協「改革」
(1)経済財政諮問会議
問題の発端は、武部元農水大臣の「『食』と『農』の再生プラン」(農水省、2002年4月)である。それはひと口にいって小泉構造改革の農政における先兵としての役割を担うものだった。そこでは「農業経営の株式会社化」等の規制緩和がトピックスとしての安全性問題と並んで前面に出ていた。
とくに5月末の経済財政諮問会議の承認を受ける段階からやおらエスカレートし、全体のトーンも「農業の構造改革」から「食料産業の構造改革」へ飛躍する。内容的には「流通段階の高コスト構造の是正…農業支援サービスへの競争原理の導入や消費者ニーズに即応した農協のマーケティング機能の強化等農協系統組織の改革を促進」としていたが、同会議での大臣の「農協の改革について、…競争原理の導入により、農協系統組織も変わらざるを得ない。改革を進めるか、さもなくば解体をせまられる運命にある」という拙劣で大仰なプレゼンテーションが財界に大いにつけいるスキを与えた。
この時に提出された工程表では、「経済事業の再構築(平成14〜16年度)」として「統合により肥大化した全農本体(統合連合)や農協のスリム化等による組織の再構築の指導を徹底して行うほか、業務改善命令をコアとした集中的指導を実施することにより、消費者・生産者ニーズに即応した経済事業への転換」と焦点を絞っている。「業務改善命令」云々は偽装表示事件等への対応と思われる。
大臣は6月5日の日本記者クラブで、農協は「理事会だとか総会だとかで物事を決めるので時間がかかりすぎる」「例えば営農指導のコンサルタント会社をつくり、Aコープを分社化する」「生産者がどこの農協とも取引できるようにする」、「補助金をもらう民間会社があってもいい」とさらに踏み込んだ発言をした。
さらに8月30日の同会議では、農水大臣は「外部との競争の促進策」を説明に加え、「 問題を打破するには農協のほかに農協型株式会社があってもよいのではないか」「解体的改革がなければ農協の存続意義はゼロ」と発言し、牛尾治郎委員や竹中大臣も独禁法の適用除外に問題の焦点をおいた。牛尾発言は後にみることにして、竹中発言は「農協については独禁法の適用除外が問題ではないか。産業組織論的視点からは農協型株式会社もあり得るだろう」として構造改革特区での企業参入に理解を求めた。前述の農水省のあり方研究会はこの会議の直後に発足した。
同会議の民間議員(牛尾、奥田、本間、吉川)は2002年11月に「農業構造改革の加速化について」をまとめ、農協改革を四つの柱の一つにとりあげ、「(1)農協系統は行政と一 体となって農政の推進に寄与して きたが、…広範な事業を全国的に展開し、その独占的地位により新規参入を結果的に抑制するとともに、零細な農業構造から脱却できない一つの原因となっている」。また「(2)農協に過度に依存した農政の体質を改め、他の業者と のイコールフッティングを目指すため、競争原理の導入による以下の改革プログラム」を推進するとして、@過度に農政に依存した行政運営の改革、A経済事業等、広範な農協系統事業の抜本的な見直し、B協同組織に対する独占禁止法の制度の検証、を掲げた。
財界の農協「改革」の意向と同会議の見解を集約したものといえる。
(2)総合規制改革会議
同会議は、かねてから農協からの金融事業の「剥脱」など総合農協の否定、独禁法の適用除外の廃止等を主張している神門善久を専門委員に加え、農水省ヒアリング等において信用事業の分離(農協が信用事業をテコに農村における独占事業体になっている、信用事業と経済事業が丼勘定で合理化を阻害、農協には農業分野のみをやらせる)、独禁法の適用除外(少なくとも連合会等については見直し)、補助事業の見直し(農協を通じた補助金により農協を利用する零細農家のコストが下がり延命)、農協間競争の促進、正准組合員制度の見直し(准組合員に議決権付与)等を執拗に迫っている。
そして2002年12月の第二次答申は、@農協が真に農業者の利益をめざしているか、その事業運営の抜本見直し、員外利用率の状況調査、法令違反の是正、A信用共済の収益で経済事業等の赤字を補てんし経営の健全性をそこなっているので、信用・共済事業がない状態でも経営が成り立つような運営体制を作るため、共通経費の合理的な配分基準を示す等区分経理の徹底、信用共済事業を含めた分社化、他業態への事業譲渡等の組織再編の検討、B農協が補助事業の主体となり、農家への補助金窓口になっているので、農協を通じた行政運営を網羅的に検証・適正化、C全国展開を図る経済事業等について、独禁法の適用除外について検証、公正な競争を阻害する問題の解消。独禁法違反の取締強化、農協間のサービス競争の促進を図るため、多様な組合の設立が容易となるような条件整備、を掲げた。
同会議は、あり方研の「報告書」が発表されてからも、区分経理の全国統一化、全農弱体化の具体化、信用共済事業を含めた分社化への具体的対応等をダメ押ししている。
(3)財界要求の内容と性格
以上の経緯をみると、発端は「『食』と『農』の再生プラン」で小泉構造改革の意に沿った大臣の農協への言及であるが、それが財界等の農協への不満・批判に一挙に火を付けたといえる。 二つの会議は、諮問会議は閣僚クラスと財界など民間委員が構成するため、ある意味でむき出しの財界利害と大局的な問題提起であるのに対して、規制改革会議は研究者等が省庁にヒアリングするためより具体的に突っ込み、前者を「理論的」に補強するという関係にある。
諮問会議の論調は、「農協はコメ以外でいろんなことをやっている。しかし、日本の商社はほとんど入れず、利益で農協の一人勝ちになり、農民は保護に頼っている。この意味で農協が独禁法の適用除外になっているのも問題」(牛尾委員)という発言に代表されるように、「農協が独禁法の適用除外を受けることで農村市場を独占しているために財界の農村進出が阻まれている、他業者とのイコールフィッテングを図り、外部との競争を強めるため、独禁法適用除外を外すべし」と、要約できる。
それに対して規制改革会議の論調は、具体的にどうしたらイコールフィッティングを実現できるかの方法論を指南している。その際に、神門委員の独自の考え方、すなわち農協がいろんな事業をやることでU兼農家を保護しているから離農がすすまず規模拡大が進まない、そこで区分経理を厳格にして利益の内部補てんを禁止し、さらには信用事業等を農協から分離して、農協には農業分野だけをやらせるようすべきという議論がからんでくる(まとまった見解は奥野他編『農業問題の経済分析』や前掲『農業と経済』の論文、ちなみに前者では信用事業の剥脱、独禁法適用除外の取り止め、他業態との競争条件の公平化など、今日の論点を網羅している)。
要するに小農切り捨てのための信用事業の分離だが、それが前述の農協を弱体化させて他業者との競争上のイコールフイッティングを実現するという財界の論理に接合するわけである。
かくして規制改革会議の最大の論点は信用・共済事業の分離ということになり、その前提条件として区分経理の徹底が強調されるわけである。
以上要するに、財界や官邸の意向は、農協の農村市場独占を打破して資本の農村進出を果たすため、独禁法の適用除外の廃止、区分経理の徹底、信用共済事業の分離、員外利用制限の厳格化を主張することになる。
ここで特徴的なのは、これらの財界要求の多くが実は規制緩和ではなく、規制強化である点である。すなわち現在は金融と保険の兼営も規制緩和され、イトーヨーカ堂等の金融進出などもみられるなかで、農協について最も伝統的な事業たる信用事業を禁じたりするのは規制強化以外のなにものでもない。また員外利用規制の強化もしかりである。この延長では准組合員制度の禁止をいい出す可能性もある。また独禁法の適用除外の廃止は表面的には規制緩和に見えるが、適用除外を剥脱するという点では規制強化ともいえる。
財界自らのためには徹底した規制緩和を要求しつつ、そのために農協には規制強化を強いる。これが財界の論理である。
3.農政の農協「改革」
(1)農政の農協「改革」の性格
農政の農協「改革」は、前述のように、金融事業の次は経済事業という農政スケジュール、その背景としての「経済事業等の改革を進めなければ、JAの経営自体が成り立たなくなりかねず」という事情に従ったものといえるが、それがとくに急がれたのは、いうまでもなく以上の経済財政諮問会議、総合規制改革会議を通じた財界からの「改革」要求への対応の必要である。
そこには四つの側面がある。第一は、財界要求の無理難題に対しては農業利害を守るという、それなりの農業保護の面である。従来からの家父長制(パターナリズム)農政の延長である。第二は、そこまで財界や官邸のいいなりになってしまったら、従来からの官益、省益を守れないという権益確保の面である。第三に、しかし国家機構の一員としての農水省が「抵抗勢力」としてはじき飛ばされてしまったのでは省益もクソもなくなる。その面からは可能な限りの妥協を模索する。いいかえれば第一の財界要求を実現可能な水準に修正する。第四は、財界要求を奇禍として、この際、農政が考える農協「改革」を遂行する、あるいは農政と農協との関係を見なおすというものである。
このような諸側面を総合したものとして書かれた報告書はいうまでもなく、農協自らの手による農協「改革」に対する指令書としての意味をもつ。すなわち「財界・官邸とはこの線で話をつけてやったのだから、この線を下回るような農協『改革』は許さない」という「改革」下限の設定である。ここまでタガをはめられた農協大会議案書はこれまでになかったのではないか。それが「農協系統が自立するようにしていく必要がある」とする報告書に基づくのは皮肉なものである。
(2)財界要求と農協「改革」
@独禁法適用除外
これについては、適用除外の見直しそのものは行わず、違法行為をきびしくチェックし、「現行制度の問題点が具体的に明らかになった場合は、制度の見直しを検討する」と先送りした。協同組合の独禁法適用除外は国際的な常識でもあり、それを外したら協同組合を協同組合として扱わないことになるので、さすがに見送られたといえる。
研究会では第2回に公取委の原調整課長を呼んで集中的に検討している。そこで課長は、単協と連合会を分けて考えるべきこと、「農業分野の新規参入が制限され、農業協同組合のように農業に従事するものの加入率が極めて高く、かつ、系統利用率が高い場合には、連合会が適用除外されていることなどから、依然として問題が残る」としており、単協においても「単協間の競争を活発にする」ことを要望している。要するに、系統利用率が低ければ見逃してやるが、高いと独禁法違反だというわけで、結集率の高い連合会事業そのものの否定である。また農協関係の13件の違反事例数は「けっして軽くはなく、重い数字」としている。
かくして公取委は少なくとも農協連合会については適用除外を見なおすべしという見解を堅持しているようにうかがわれる。委員の一人(岸康彦)も「農協にとっては大きな火種を抱えたようなもの」としており(前掲『農業と経済』誌)、予断を許さない。
このように独禁法適用除外問題は一応その場をとりつくろったようにみえるが、実は大きなリアクションをもたらしている。それは「全農の改革は、『農協改革の試金石』」として、全農弱体化を図ることで独禁法違反問題をクリアしようという改革方向である。
すなわち、JAは経済事業の自立をめざし、全農(経済連)まかせの販売ではなく直接販売を追求し、生産資材も全農と商系業者を比較して有利な方から仕入れるようにし(こんなことまで政府研究会が指示するのか)、また大消費地での直販等、各JAの販売事業の支援に徹し、段階的に、自らの販売関連事業は代金決済・需給情報提供などの機能に特化すべきとしている。要するに全農を頂点とする農協系統共販や共同購入の否定であり、全農の弱体化、ひいては農協の弱体化が指向されている。
A信用・共済事業の分離
信用・共済事業を分離したら実際に農協経営は成り立たなくなる。そこで農水省としてもこの財界要求をストレートに飲むわけにはいかず、総合規制改革会議の「答申」も「信用・共済事業も含めた分社化、他業態への事業譲渡」にとどめてもらった。
しかしここでもそのリアクションは大きい。すなわち「信用事業・共済事業の収益による補てんがなくとも成り立つように、経済事業等について大胆な合理化・効率化を進める」「信用・共済事業の収益がなくても成り立つ経済事業等を早急に確立」(前述の規制改革会議の「信用・共済事業がない状態でも経営が成り立ち」と表現まで同じ)、そのため 「信用・共済・経済等の部門別の収支等のデータをより明確にし」、赤字部門は「廃止、事業譲渡、民間委託のほか、分社化」する。
要するに報告書は、財界要求を裏から鸚鵡返しで言っているといえる。すなわち「分社化、事業譲渡」の対象が信用共済事業から赤字部門に言い換えれられたわけである。どちらがどちらを分離しても、結局は総合農協の解体である。
この財界の表からの要求と農政の裏からの妥協の接点になるのが、部門別収支、区分経理である。区分経理等については、なにでも事細かくマニュアルを指示したがる農水省がそうしてこなかったことは、区分経理が総合農協になじまないことを認識していたからだろうが、この点でも財界の要求に屈したものと思われる。
その問題点は繰り返しになるが、次のとおりである。第一に、部門別損益計算にあたっては、共通管理費の部門別配賦の方法論に問題が矮小化されているが、そもそも事業利益をあげるにあたって部門間の相乗効果があることが無視されている。第二に、共通管理費の配分も第一との関連で本来的に困難があることを無視して、機械的に仮定・擬制計算しようとしている。第三に、各単協が「合理的な配賦基準」を設けることとしているが、財界は全国統一の区分経理の遂行を要求するだろうし、それに応えていくことはいよいよ仮定・擬制計算を画一的に強制することにより真実から離れていく。第四に、当面は農協法37条に基づく総会承認事項だとしても、既に狙われていることは、部門ごとの黒字・赤字に基づく農協事業の分社化、事業譲渡の自主ルールに基づく強制であり、総合農協の解体である。
B員外利用規制と准組合員制度
これについては、総合規制改革会議が組合員制度の実態、員外利用率の状況調査と違反の場合の是正を指摘したが、「報告書」における言及はない。しかし言及しなかったからといって、論点として重要でないということにはならない。同会議でも准組合員の位置づけなどの見解が必ずしも統一されてはおらず、下手に触れると准組合員制度を利用した員外利用規制のクリア等の問題、ひいては准組合員制度そのものの見直し等に論点が波及することは必至とみたからであろう。
(3)農政の農協「改革」
以上は農政の財界要求への対応だが、次に農政自らの農協「改革」の意図をみていく。
第一は、農政と農協の関係の見直しである。財界は前述のように農政が過度に農協に依存することにより、農業・農協を過保護することになり、それが資本の農村への参入障壁となっているとして、その改革を求めた。同時に農政としても、農協を農政の浸透機関、エージェンシーとする長い農政の伝統の歴史的見直し期にきていたといえる。それを端的に示すのが米政策である。政府米は備蓄に限定されることにより、政府が政府米を通じて米流通に関与する時代は終わった。さらに「大綱」で、基本的に国の責任による生産調整政策も終わった。これからは農協が売れる米だけを生産販売する時代であり、生産調整が必要なら農協が自主的にやる時代だとした。要するに戦後農協を性格づけてきた食管制度を軸とする農政との一体的関係が最終的に終わったのである。農政は農協を、良くいえば独り立ち(自立)させる、はっきりいえば市場メカニズムに突き放す段階にきた。だからこれからは、行政は法令等に基づく指導監督を基本とし、行政代行業務はやらせない、農協と農協以外の生産者団体をイコールフィッティングする、というものである。
第二に、かといって農政にとっての農協がいらなくなったわけではない。行政代行業務は外圧でやめたとしても、農政代行業務は増えている。農地流動化、経営体の育成、生産調整など、いずれも農政は手詰まり状況であり、農協の地域農業再編力、地域水田農業ビジョンづくり、地域内調整能力等に期待するしかない。ところがこのような農政代行業務を具体的に担当するのは営農指導部門である。そこで「報告書」は敢えていわずもがなの「『営農指導』は、販売事業等の『先行投資』」であり、「営農指導単独での収支を考える必要はない」とし、営農指導部門については部門別収支ではなく、他部門からの内部補てんを是とした。しかるに経済事業の赤字基調を放置すれば「信用事業・共済事業の収益を農業志向に回せなくなるばかりでなく、近い将来JAの経営が成り立たなくなる」。かくして経済事業改革が農政にとっても必須なのである。要するに、財政負担ではなく農協負担で農政代行業務をやらせるための農協「改革」である。
第三に、価格政策からの撤退は行ったが、それに代わる欧米並みの直接支払い政策の導入がもたつくなかで、農政は農産物価格の下落を座視せざるをえない。そうなると担い手育成政策も完全に手詰まりで、とくに専業的な担い手経営の経営悪化が著しい。このような「減収減益」状況を、せめて「減収増益」にもっていくには、生産資材価格の引下げ、なかんずく大規模経営等へのディスカウントしかない。これが、農政が農協の経済事業改革にシャカリキになる隠された理由の一つだろう。
(4)自民党との関係
ガット・ウルグアイラウンド以降、政府と自民党と農協の三者会議の体制、三位一体の農政推進体制が確立してきた。しかるに農協問題については、自民党の代わりに財界が加わったことで、三者体制がみえにくい。問題が法律マターでなかったこともあり、この間、自民党が正面から農協を論じることはなかったといえる。むしろこの時期の自民党と農協との関係は米政策「改革」を主要な場としたといえる。ここでは米政策「改革」問題には触れないが、農協は生産調整関連の従来予算枠の確保、米価下落影響緩和対策、担い手経営安定対策、過剰米短期融資制度(集荷円滑化対策に改称)における助成水準の引き上げを強く要求しており、7月24日には政府・自民党からかなりの「譲歩」を引き出した。
要するに農協の姿勢は、米政策「改革」の全体の仕組みを正面から検討するのではなく(『農村と都市をむすぶ』2003年3月号の佐伯・山田全中専務の対談で、その辺の事情があますところなく「告白」されている)、農政運動を経済的条件闘争に限定し、農水省のシビアな原案に対して自民党に泣きを入れ、自民党は原案に若干の譲歩を加えることで農協の顔をたてて、秋にも予想される総選挙に備える、というあいもかわらぬ政治茶番が演じられている。
米政策「改革」を通じてみられたのは「三者(自民党・農水省・農業団体)の関係の様変わり」(『日本農業新聞』2002.12.5)であり、大局的に都市政党化をめざす自民党と農協 がどういう関係変化をみせるのかが注目される。
4.「大会議案」の農協「改革」
(1)「大会議案」の基本的な性格
このようにみてくると、「大会議案」は二重にタガをはめられたものといえる。第一は、財界の農村進出要求を具体化した経済財政諮問会議や総合規制改革会議のタガである。第二は、それを受けた農水省の財界との妥協と自らの農政目的の追求のための農協「改革」のタガである。
両者の妥協点の文書化である「報告書」は、「大会議案」に対して「この水準以下の『改革』は認めない」という下限を設定したものといえる。
そのタガのなかで書かれた「大会議案」である。
(2)経済事業「改革」の問題点
今回の農協「改革」は経済事業「改革」を中心としたものだが、その詳細は以下の章で分析されるので、ここでは、その大枠での問題点のみを指摘しておく。
第一は、農協の組織再編を大前提とした経済事業「改革」でしかない点である。「大会議案」では広域合併の「完遂」、「統合連合としての最も効率的な事業システム」をうたっている。しかしいうまでもなく経済事業はシビアなものであり、それ自体としての経済効率、規模の経済性等、競合企業との競争をきびしく迫られる。いくら組織決定だからといって経済合理性に欠けるものはアウトである。
広域合併が大前提となっているが、今年の農業白書は大規模農協ほど手数料が高くなることを指摘している。かつては単協の自己完結性や自己責任制が強調されたが、そのような自己完結性がいっこうに発揮されないなかで、今日では農協の「JAバンク化」すなわち単協の全国連支店・支所化が追求されている。それはいいかえれば広域合併に経済合理性がなかったことの証左である。
また経済連の全農統合をめぐっても、北海道、静岡、愛知、熊本、宮崎、鹿児島は経済連を保っている。これらの県に共通するのは、園芸等の複合産地化が図られていること、系統事業といえる肥料をみても、経済連の全農利用率が低い県である。園芸等の展開に即して独自に肥料調達等を行っているとみるべきである。そのなかで同様の傾向をもつ長野経済連が全農統合したのは著しく合理性に欠ける選択といわざるをえない。
要するに広域合併も経済連の全農統合も全国一律に追求する方針としては経済合理性を欠いている。そのような経済合理性に欠ける前提のもとでの経済事業「改革」がほんとうに合理的なものなのかの吟味がはじめから閉ざされている。
第二は、経済事業「改革」のみの追求で、協同組合のもう一つの側面である組合員組織改革との連動性に欠ける。後者についても書いてはいるが、例年どおりの記述に過ぎない。農協とはいうまでもなく株式会社と異なり、市場のシグナルに従うのではなく、「組合員の声を聴く」という「市場の内部化」によって株式会社に対抗する企業形態である。そこではいってみれば、経済事業改革と組合員組織改革は車の両輪の関係にある。
「大会議案」は、いたるところで、「組合員の負託に応える」「組合員の声を聴く」「組合員にメリットを還元する」と語っている。一見まことしやかな言葉だが、ほとんどこの間の生協の実践からの孫引きに過ぎず、農協経営が一方的に組合員から「負託」を受け、「声を聴き」、(顧客に)「メリットを還元する」という一方的な関係、請負・恩恵の関係でしかない。ほんとうに組合員の声を聴きながら、組合員との双方向的コミュニケーションのなかで事業展開をする、それにふさわしい組合員組織を構築する、という課題はまったく自覚されていない。
農協の経済事業の不振は、もちろん不況や価格の低迷もあるが、根本のところは変化する組合員のトータルなあり方、そのニーズを把握できないところにある。
第三に、このような経済事業のみの「改革」は、結局のところ、農協事業の縮小再編、減収増益路線であり、その手段は労働条件の切り下げ、人件費の節約でしかない。そこでは「目標管理制度」「職員を成果主義的に評価していく」とされているが、『週刊朝日』8月29日号の特集タイトルをみても「成果主義の『崩壊』」「『個人業績のみ』から『トータル評価』企業続出」と書かれている。また記事では「売り上げがのびないなか、増え続ける人件費を減らす必要に迫られた。結局、そのツールとして使われたのが成果主義だったわけです」「成果主義のツールとしての最も一般的なのが『目標管理制度』といわれるものだ」。既に一般企業で破綻を宣告されている古い人事管理方式を、しかも最も総合的な評価を必要とする総合農協に導入しようというのだから、アナクロニズムも極まった「改革」といわざるをえない。
U.米改革戦略と営農・販売対策
「大会議案」は、小泉内閣のもとですすめられている農業構造改革(米政策改革、農地政策改革、農協改革)と強いつながりをもって提案されている。とくに、今回の大会では米政策改革への対応と農協の経済事業改革が重点課題とされている。ここでは主として米改革と営農・販売事業にかかわる改革方向を検討の対象とする。「大会議案」を中心に検討するが、4月に「大会議案」とともに提起された「米戦略」、「指針」も取扱う。また、大会議案に影響を与えている昨年12月の農水省の「大綱」、今年2月の「要綱、さらに昨年暮れの総合規制改革会議の「答申」、今年3月の農水省の「報告書」にも関連して触れることにする。
1.米政策改革と農協の米改革戦略
(1)政府と一体になってすすめる米政策改革
農協の「米戦略」では、政府の米政策改革への評価として、運動の成果として、@農業者・農業者団体が主役となるシステムにおいて国・地方公共団体の役割を食糧法に明確に位置づけたこと、A産地づくり推進交付金、担い手に対する経営安定対策、過剰米対策など農協が強く求めてきた政策課題が実現したとしている。「大綱」は、農水省の生産調整に関する研究会報告「水田農業政策・米政策再構築の基本方向」(02年11月)を受けて、政府が決定したものである。この研究会に全中幹部も参加し、当初は政府が生産調整から手を引くことに抵抗を示したが、結局はこれに同意するところとなった。
国の役割を食糧法に明確に位置づけたことを成果としているが、食糧法第5条では生産者団体等が定める生産調整方針を「農林水産大臣の認定を受けることができる」とし、第6条で生産調整方針の作成と運用に国が「必要な助言および指導を行うように努めるものとする」程度のものである。「要綱」では、過渡的措置として、政府は平成18年産又は平成19年産までは政府の示す「基本指針」の中に、地域別の米穀の生産目標数量を定めるが、平成20年以降は完全に手を引く計画である。
次に産地づくり推進交付金、担い手に対する経営安定対策、過剰米対策などの政策課題が実現したことも運動の成果としているが、いずれも政府が米の需給管理責任を放棄するための過渡的措置であり、しかも予測される米価の下落を前提とした施策である。すでにWTO体制下での新食糧法のもとで、米価は大暴落し、稲作経営が危機的状況におかれているが、「大綱」に示される新たな施策も危機打開につながるものではない。産地づくり推進交付金には「産地づくり対策」と「米価下落影響緩和対策」が含まれ、どちらに重点を置くかは都道府県の判断となっている。7月末に決定を見た政府・自民答案では、これまでの転作奨励金に代わる「産地づくり対策」では、麦・大豆・飼料作物への転作で、10a当たり、基本部分1万円、担い手加算4万円、それに重点作物特別対策を加算して最高額6万3千円である。「米価下落影響緩和対策」(「稲作所得基盤確保対策」と名称変更)は、固定部分300円+変動部分基準価格との差額50%補てん、変動部分の基金は生産者と政府が1:1で拠出するというもので、現行の稲作経営安定対策よりも大幅に後退する内容になっている.また新設した「担い手経営安定対策」は生産者:政府が基金を1:3で拠出、稲作収入減の90%補てん(ただし「稲作所得基盤確保対策」の補てん部分を除く)するというものであるが、担い手の条件として北海道10ha以上、都府県4ha以上、集落営農で20ha以上(知事特認で8割までや、中山間地の集落営農は10ha以上などの緩和措置があるが)などのきびしい条件がついている。また「過剰米短期融資制度」(「集荷円滑化対策」と名称変更)の融資単価は60kg3000円であるが,これに保管料等経費1000円、集荷奨励1000円をプラスするというものである。秋に総選挙が予定されていることもあり、当初の政府案より緩和されたとはいえ、これらの予算を確保する条件が一層きびしくなり、また、担い手対策に大きく傾斜した対策となっている。
農協中央首脳部では予算獲得でもほぼ要求が実現したとしているが、問題は引き続きMA米が入る中で、政府が需給管理から手を引き、しかも備蓄量を削減し、米穀の販売と流通の自由化が一層強化される状況にあり、さらなる米価の低落傾向に歯止めがかからない可能性がある。米輸入にたいする国境保護措置とともに、抜本的な価格支持政策が求められる。
(2)地域水田農業ビジョンの策定と農協の対応
「大綱」で決まった産地づくり推進交付金(産地づくり対策・稲作所得基盤確保対策)の交付を受けるためには、「地域水田農業ビジョン」の策定が必要条件とされている。しかも「要綱」によると、ビジョンの具体的目標の中には、「担い手の明確化・育成及び担い手への土地利用集積の目標」を盛り込むこと、「担い手のリストの作成」「地域に担い手が存在しない場合は『集落型経営体』の組織化」が課題とされている。ビジョンは地域水田農業推進協議会(市町村、農協等生産出荷団体、農業共済組合、農業委員会、土地改良区、担い手農家、実需者、消費者団体などで構成)で策定する。また、地域の需給計画等を策定する第三者機関的組織は、地域水田農業推進協議会と共通とすることが可能とされている。
「大会議案」では、この「地域水田農業ビジョン」の策定に農協が中心的役割を果たし、15年度から、担い手の明確化や産地づくり対策の準備を進め、ビジョンと一体的に、全JAで「生産調整方針」を策定することを提起している。注目されるのは、先の第22回全国農協大会決議で、市町村レベルでの地域営農センタ−が中心となって策定することになっていた地域農業戦略構想を見直し(取り止め?)、地域水田農業ビジョンの策定に集中する方向が示されていることである。地域農業戦略構想は農協の主体性を有しているが、地域水田農業ビジョンの策定は強い行政的枠組みのもとでの「計画」とならざるとえない。
また「米戦略」や「大会議案」では、米政策改革の受け皿づくりとも見られる水田営農実践組合づくりを提起している。説明では、現行の零細・兼業の水田農業構造のもとでは、面的まとまりをもったとりくみが必要であるとし、飯米農家や稲作付希望農家に対しては、実践組合の計画・目標への参加を促すとしている。JAにとって実践組合は地区ごとの水田作の販売・生産部会として位置づけるものとし、実践組合では「集落型経営体」を含む担い手の明確化と農地利用集積の目標設定を行うとしている。さらに、水田営農実践組合は「地域水田農業ビジョン」にもとづき、明確化された担い手を中心に、麦・大豆・飼料作物の本作化など、「産地づくり対策」と水田農業の構造改革にとりくむとしている。
問題は水田営農実践組合の中の零細農家や兼業農家が農業生産の継続を希望した場合、ビジョンの具体的目標とされる「担い手の明確化」「担い手のリストアップ」「担い手への農地利用集積」などとの利害調整にまで農協が関わることであり、混乱が予測される。また、実践組合は担い手を中心に麦・大豆・飼料作物の本作化などの「産地づくり対策」をすすめるとしているが、組合員農家の多様な農業生産との利害調整が問題となる。地域農業のあり方をめぐって、地域水田農業ビジョンの策定は、当面する大きな争点であり、組合員農家や集落の意向を踏まえ、地域の条件を生かした自主的な地域農業計画の策定が求められているといえよう。
(3)農協の「担い手」支援対策強化とその背景
今回の「大会議案」では農協の地域水田農業ビジョンづくりとも関わり、担い手支援対策が重要課題として提起されている。すなわち、担い手支援事業対策強化のため、担当チ−ム・専任部署を設置し、集落営農、認定農業者、生産法人、新規就農者のニーズに対応した支援事業の強化として、生産資材価格の弾力的設定、競争条件に応じた手数料設定や雇用労働力確保、税務指導、経営診断・経営改善計画策定支援などが掲げられている。また、担い手への農地利用集積のため、行政と連携し、農地の出し手と受け手を結ぶマッピングシステムの活用、農地保有合理化法人の活用などを課題としている。さらに、法人化対応として、集落営農の「集落型経営体」化と生産法人化、大規模経営体の法人化、担い手不足地域におけるJA自らの法人設立が提起されている。ここでの「集落型経営体」は「大綱」で、「担い手経営安定対策」の対象とする担い手として位置づけられたもので、20haという面積規模のほか、一元的経理や法人化することなどの要件を満たすものとされている。後に分析する経済事業改革や「指針」でも、「担い手対策」が強調され、「農業者、とりわけ担い手に実感される生産資材価格の引下げ」などを掲げている。
「大会議案」がことさら担い手対策を強調する背景には、政府・財界からの農協攻撃が強く影響している。例えば、「答申」では、農協運営が平等を原則としたため、少数の大規模農家よりも多数の零細農家の利益が重視され、また、農協間競争が行われない結果、零細な生産構造の温存をもたらし、農業の構造改善を遅らせたと、批判している。また「報告書」では、大口利用者にメリットが少ないことが、担い手農業者のJA離れの要因だとして、大規模経営や法人経営へメリットのある価格体系を明示する必要があるとしている。また、農協運営の「形式的な平等」が問題であり、担い手を中心にメリハリをつけた「実質的な公平」への事業転換ができていないと批判している。「報告書」では、さらに、担い手にメリットが出るようにしてこそ、新基本法のめざす食料自給率の向上や、国際競争力の向上につながることになるとまで言っている。
これでは政府が基本法農政以降推進してきた「自立経営」、「中核農家」、「効率的・安定的経営体」の育成などの農業構造政策がすすまない責任を農協に転嫁するものである。また、政府が平成22年を目標とする「農業構造の展望」で、40万の担い手経営に農業生産の集中を図るというが、この政策で食料自給率が高まる保障はなく、むしろ一層低下する可能性の方が大きい。認定農業者など担い手農家の経営を困難にしているのは、農産物の市場開放と価格支持政策の放棄による米価をはじめとする農産物価格の下落である。大規模稲作経営については、純収益の減少による地代負担能力がますます低下し、構造政策自体の破綻を示している。こうした農政の失敗を看過し、担い手の育成を、生産資材価格の引下げなどで農協の役割とし、責任を転嫁しようとしており、農協はそのねらいに大きく巻き込まれている。
また、「答申」や「報告書」では、担い手経営と小規模農家が対立するように描いているが、集落営農による機械・施設の共同利用や農道整備・水管理など、担い手農家と零細農家の共同活動で地域農業が守られており、こうした共同活動を維持するうえで、農協の果たしている役割も大きい。安易に集落営農の「集落型経営体」への促進をはかるのではなく、地域の農家の置かれた状況に対応し、その多面的機能の充実こそ重要な課題である。
(4)JAグル−プの米事業改革
JAグル−プの米事業改革は、@JAのとりくみを基本とした事業方式への転換、A「協同」と「競争」のとりくみ、B販売を起点とした事業方式の確立を課題としている。すなわち、@では、計画流通米制度が廃止されることから、これまでの全国一律の事業方式から、JAが主体的に生産・販売計画を立てる販売戦略に転換することとしている。連合会はJAの補完機能を担うものとして、大消費地を中心とした安定的な販売、県産ブランドの確立・強化、より消費者接近型事業の強化を図るものとしている。Aでは、米の計画生産や過剰米処理対策などでは「協同」でとりくみ、地域の特色ある農業の展開や安全・安心等のとりくみでは、健全な「競争」を展開する。Bでは、「販売可能な量だけ作る」という事業方式の確立に向け、用途別価格帯別需要の把握、生産者への需要情報のタイムリ−な伝達、地域水田農業ビジョンや生産調整方針と連動した販売計画と生産計画の策定などをすすめるとともに、契約栽培・長期安定契約の拡大、業務用や加工用の生産、炊飯事業などの展開、米粉パンの開発、日本米の輸出による新たな需要の開発を課題としている。
「大綱」では、生産者・生産者団体が主体となる米づくりへの転換が提起され、米の需給調整も生産者団体の責任とされた。「販売可能な量だけつくる」という販売を起点とした事業方式への転換というが、MA米をはじめ、関税引き下げなどで、輸入米が拡大した場合は「販売可能な量」もどんどん縮小することになる。「販売可能な量だけつくる」ということでは、米の自給率低下に対しても無抵抗な姿勢ではないか。「米戦略」では、JA・県間競争の拡大による大混乱を避けるため、「協同」のとりくみとして、適切な計画生産、豊作分の区分出荷と「過剰米短期融資制度」の活用などを掲げているが、連合会機能が縮小し、「JAの取組みを基本とした事業方式への転換」が強化されるほど、「協同」より「競争」が強まることにならないか。米の生産と販売ではこれまで都道府県レベルでの自治体と経済連などの連携が果たしてきた役割が大きかった。JAと連合会の機能分担では、全農県本部や経済連の果たしている現実的役割の客観的評価が必要である。「組合員との結びつきを強化する取組み」として、販売と連動した多様な委託条件や契約方式の設定、流通コストの引き下げ、新たな仮渡金対策などを掲げているが、営農指導体制を充実し、組合員農家の営農・販売面での協同活動を強化することが、当面する米危機に対する重要課題である。
2.農協の営農・販売対策
(1)営農指導体制の整備と営農指導員の目標管理
「大会議案」では、営農指導体整備の方向として、担い手の育成や農地の利用集積など地域農業の司令塔としてのマネジメント機能の発揮、マ−ケテイング戦略にもとづく市場対応機能強化にむけて、営農・販売企画力の充実のため、営農センタ−を整備するとしている。また、販売戦略にもとづく営農指導の重点化、地域資源活用に向けた企画提案型の営農指導にとりくむとしている。さらに、営農指導員個人のレベルでの具体的な行動計画を「マイプラン」として作成し、目標管理の徹底を図ることが提案されている。
問題は農水省の「報告書」では、農協の営農関連事業に対し、「農産物の直接販売の拡大を軸にして、これに資するように展開すべき」であるとし、「営農指導」は販売事業等の「先行投資」と位置づけることを指摘している。直接販売の問題点は後に指摘するが、こうした指摘も受け、「大会議案」の営農指導体制整備の特徴は担い手の育成と販売戦略重視の方向が示されていることである。重視すべきは営農指導員の目標管理制度が提起されたことである。営農指導の目標が設定され、これが検証・考課され、能力主義型人事制度に連動することとされている。地域の農業の現状に応じて、その創造性と指導員の協力関係が強く求められる営農指導への画一的な目標管理の導入と徹底は、かえって営農指導員の指導能力の発揮を歪めかねない。また「大会議案」では、生産現場や組合員宅へ「出向く営農指導」「見える営農指導」を提起しているが、農協の広域合併にともない、営農指導員の削減や支所からの引きあげと広域営農センタ−への集中がすすんでいる中で、そうしたきめ細かな指導の実現は困難であるといえよう。
(2)マ−ケテイング志向による販売戦略
「大会議案」では、マ−ケテイング志向による販売戦略として、消費者・実需者のニーズを十分に把握した販売戦略の構築、実需者や市場、その他取引先のニーズ・クレーム等の情報を的確に生産現場にフイ−ドバック、多様な販売チャネルの確保を課題としている。多様な販売チャネルの確保では、卸売市場への出荷に加え、量販店や生協、中食・外食・加工業者等との相対取引、契約取引、インショップの展開や消費者への直接販売として、高齢者・女性が活躍できるファ−マ−ズ・マ−ケットや直売所の展開も掲げている。また、販売先・販売形態・生産基準に応じ、多様な生産者が活躍できる部会としている。
たしかに、旧農業基本法下での日本の農協系統共販は、農産物の集荷と加工資本や大都市卸売市場への出荷機能にウエイトが置かれ、農産物加工や産直、地場流通を固めることなどに遅れをとっていたことは否めず、これらのとりくみを強化すことは重要である。しかし、「大会議案」や「指針」で「多様な販売チャネル」、「直接販売」を強調する背景には、農水省の「報告書」がある。「報告書」では、農協の販売事業は全農(経済連)任せ、市場任せで、消費者ニ―ズに直接対応する工夫に欠けていたとし、「市場流通だけでなく、段階的に消費者・ス−パー・外食産業・加工業者への直接販売を拡大し、多様な販売システムを構築していく必要がある」と指摘している。こうした指摘を受け、「指針」では、販売事業戦略の見直しとして、市場出荷中心の販売事業だけでなく、直接販売の強化(直売所や地産・地消を通じた消費者等への直接販売、地域の量販店・外食産業等への直接販売、大消費地の量販店等への契約販売、JAタウン等インタ−ネットを活用した消費者直接販売等)を提起している。
「報告書」などでは、スーパ−・外食産業・加工資本などへの直接販売の強化を強調しているが、いま大手ス−パーなどは、仕入れ価格引下げ、プリパッケ−ジなどの流通費の川上負担、差別化商品確保のための産地掌握など、バイイングパワーを強化している。流通に占める量販店の地位が高まる中で、農協のスーパー等への直接販売の必要性が強まっているが、大手資本の下請化を回避するため、主体性を持った販売対策が求められる。また、卸売市場流通の地位が低下しつつあるとはいえ、今日なお青果物や花卉の流通量の過半を担っており、牛肉や豚肉の流通でも、価格形成など、一定の役割を担っている。これらの農産物の卸売市場出荷において、全農・全農県本部(経済連)が需給調整機能などで現実に果たしている役割も正当に評価される必要がある。小規模農家から専業農家まで含めて、組合員の生産した農産物をできるだけ有利に販売するためには、共同活動をべ―スに、直売市、宅配便、消費者グル―プへの産直、協同組合間協同、学校・病院給食への供給、卸売市場出荷、ス―パ―・外食産業への販売、さらには必要な農産加工のとりくみなど、多元的な流通システムの確立が求められている。「大会議案」でも、「多様な生産者」による「多様な販売チャネル」が提起されている。販売対策における農業生産の担い手をどうみるか、多様な販売システムの中身をどうみるかが、大きく問われている。
(3)生産・流通段階の「安全・安心」のとりくみ
ここでは消費者や実需者に対し、国産農産物の信頼性を高めるための食の「安全・安心」確保のための諸課題を掲げている。すなわち、生産履歴記帳運動の確実な実践、JAS法、農薬取締法、食品衛生法など法令遵守の徹底、トレサビリテイなど品質管理等の徹底、第三者機関による検査・審査・認証システムの構築などが提起されている。
今回の「大会議案」で食の安全・安心問題を重視する背景には、農協系統組織においても、農産物の偽装表示事件が発生し、また、無登録農薬の使用問題が起こるなど、農協の食品・農産物管理に対する国民の信頼が失墜し、その回復が課題となっていることがある。この点ついては「報告書」でも、JA,全農及び子会社に対し、偽装表示事件を再発させないために、コンプライアンス(法令遵守)の徹底を図ることが指摘されている。偽装表示事件の多くが、農協の関連会社で起こっていることに見られるように、協同組合理念から乖離し、経営中心主義的な事業運営に走ったことにも問題がある。したがって、再発防止のためには、農協の組織・事業運営のあり方自体が問われているものと言えよう。
また、今後の「安全・安心」のために、トレサビリテイのとりくみが各所で強調されている。重要な課題ではあるが、問題はそのためには費用が嵩み、農業生産者の負担増となりかねない。量販店などは商品差別化のためのPB商品の開発戦略としてもトレサビリテイを利用するであろうし、ここでも農協の主体的とりくみが重要な課題である。
(4)生産・消費を通じた食料自給率向上のとりくみ
食料自給率向上に向けたとりくみとして、水田における麦・大豆・飼料作物等の本作化、ごはんを中心とした「日本型食生活」と食農教育の普及、市町村・県レベルでの「農業振興条例」策定の働きかけと地域別食料自給率目標の設定などの諸課題を提起している。しかし、日本の食料自給率をカロリ−べ−スで40%まで低下させた国政の責任(主要な農産物に対する国境保護措置と農産物価格支持政策の欠落)を看過し、食料自給率向上の実現を地域、生産者、消費者の責任とするのは、まさに、食料・農業・農村基本法の手法である。農産物の市場開放と価格支持政策の後退がすすむ中での、食料自給率の向上は、地域努力、国民努力だけでは限界があり、基本食料の国内自給率を高めるには、主要農産物の限界生産費が補償されるような価格支持政策が不可欠である。水田での麦・大豆・飼料作物等の生産の伸びも転作奨励金の支えによるものであり、この支えが外されると後退することは、かっての水田利用再編対策の経験からも明らかである。麦類・大豆の生産と自給率はすでに食料・農業・農村計画の目標年次(2010年)の目標を実現している.こうした中で、麦類・大豆の需給のミスマッチが強調されつつあり、生産抑制の可能性も出ている。単に米減らしの手段としての麦・大豆振興では、真の自給率向上にはつながらない。裏作麦の振興も含め水田の高度利用を図る立場から、麦・大豆などの本格的生産拡大と自給率向上に向けた総合的な条件整備(国土にあった品種開発、土壌改良、流通・加工対策、価格支持政策など)が必要である。
(5)地域農業の振興、農業経営の安定対策、広報・農政活動の展開
「大会議案」では、重点実施事項の一つである「安全・安心な農産物の提供と地域農業の振興」の課題として、これまでの検討項目のほかに、@環境等に配慮した地域農業の振興、A公平な貿易ル−ルづくりと農業経営の安定対策、B地域からの情報発信と理解促進をはかる広報・農政活動の展開が提起されている。@の課題は、環境保全型農業の振興、耕畜連携を軸とした資源循環型農業の推進、都市的地域における農業振興、中山間地域等条件不利地域における農業・農村の維持・保全などである。Aでは、WTO農業交渉での日本提案の各国への働きかけ、稲作、麦・大豆、畜産・酪農、野菜・果樹などの現行の経営安定対策の維持・強化を掲げている。ここでは担い手を対象とした「新たな経営所得安定対策」の検討も提起している。Bでは、JA・全国連の有する各種広報手段による広報活動強化による農業理解の促進を掲げている。農政活動では、「日常的な行政や議員等との連携を通じ、現場からの政策提案の積み上げや意志反映への運動的なとりくみを中心とした農政活動を強化します」としている。ここに見られる特徴は、全体として、政府の行う農業政策の枠組みのなかで、これに協力する立場からの、課題提起に終わっている。「運動的な取組み」という表現に見られるように、農産物輸入の制限や価格政策などの切実な農民要求を広範な運動をバックに政府に解決を迫るのではなく、農政活動もせいぜい政府・自民党などへの陳情活動の範囲に制限しようとするものである。
V.経済事業改革とそのあり方
1.はじめに
(1)経済事業改革の背景
経済事業に関わる分野は、「大会議案」における重点実施項目として、主に「組合員の負託に応える経済事業改革」の中に位置づけられている。しかし、「大会議案」とともに提起される「指針」の内容は、その他の重点実施事項である、「安全・安心な農産物の提供と地域農業の振興」「経営の健全性・高度化への取り組み強化」のなかにも散りばめられて展開されており、ここでは経済事業改革に関わって「大会議案」全体をあわせて検討するという立場ですすめていきたいと考える。
さて、今回の「大会議案」において、経済事業改革が最重点課題の一つとして提起されていることは、「指針」が同時に示されていることからも明らかである。組合員の農協への要望は、営農指導事業や販売購買事業に集中するため、それに関わる分野が議論の中心になることは当然であり、前回大会でも重要テーマとして位置づけられていた。とはいえ、今回の「大会議案」で注目される点は、農協改革の断行として改善目標を定めている点である。そこでは、事業目標のみではなく財務目標を設けており、経営面から経済事業を改善する方向性が強調されている。経済事業はほとんどの農協において赤字であり、信用・共済事業の利幅が薄くなり、経済事業の赤字を放置したままでは、信用事業を行うことができる自己資本比率を割り込むことが懸念されるという問題の所在から出発している。しかし、そのことは前回大会後に定められたJAバンクシステムですでにルール化された内容にほかならないのである。
むしろ今回の「大会議案」で問題とすべき点は、「大会議案」の内容に、2002年12月に取りまとめた政府の総合規制改革会議の「答申」における農協事業に関する部分、および2002年9月に設置された農水省の「農協のあり方についての研究会」が2003年3月に取りまとめた「報告書」が大きく関わっていることでる。昨今の農協経済事業解体攻撃に屈したかのごとく、今回の「大会議案」は内容的にはそれらとほとんど同じとみることができ、「選択と集中」「経営の健全性」の名の下に利益優先の経済事業システムのあり方が示されているのである。
こうした農協解体攻撃には様々な意図が読みとれるが、農業政策を行う側としては、農業生産コスト高と農産物価格低迷の要因を農協の販売・購買事業の努力不足とし、農協に責任転嫁するねらいがある。財界側としては農地法改正などへの圧力と合わせ、農業分野への参入を画策するために、農協の総合的事業展開を否定させることで農村において高いシェアを有する営農関連事業を縮小・解体させるねらいがあると考えられる。
農協が自主自立の協同組合組織であるかは議論のある点ではあるが、市場経済の下で活動する経済組織体であり、総合的事業展開の中で利益をどのように分配するかなどは、いわば企業戦略でもあり、独自の判断で行えばよいことである。外部から強制される性格のものではないのである。昨今の経済事業改革論議は、明らかに農協系統の側に主導権を有する形では行われておらず、組合員の営農・生活や地域の要望・実態とはかけ離れた次元ですすめられているのであるから、「大会議案」では、本来ならば系統農協としての独自なスタンスを盛り込まなければならないのであるが、それはほとんど見られないのである。そうした根本的問題点を有する「大会議案」の経済事業分野ではあるが、そのことは前提条件にも示されている。
(2)大会議案における前提条件
「大会議案」では、経済事業改革の背景というより前提条件として二つほど述べている。一つは農産物販売市場と生産資材の生産・流通の変化、生活関連事業環境の変化の中、これまでの経済事業システムでは、農協の競争力は低下する一方であり、農協離れや農協批判の一因となっているということである。二つめは、金融部門における環境変化により、従来のような信用・共済部門の収益に依存した経営が困難になっているため、経済事業についても事業システムの抜本的見直しを含めた収支改善策を行わなければ、総合事業体としての農協機能発揮も困難になってしまうとしている。
他方、指針においては次の五点ほどにまとめられている。@農協事業収支の悪化、A偽装表示や無登録農薬問題を契機とした安全・安心に対する危機感の強まり、B農産物販売市場や購買事業の競争環境の劇的な変化、C統合連合の組成に伴うメリット発揮や一体的運営が不十分、D経済財政諮問会議や総合規制改革会議による農協批判と農水省の「報告書」である。基本的に同様であり、「指針」では、政策的背景があることを明記している。
これらの前提条件で述べられている内容で最大の問題点は、組合員や地域が望む事柄を改革の前提に示すことができていないことである。出発点から外部に強制されて改革を行っていると宣言しているようなものである。さらに、外部環境の変化を前提として、その枠内での対応策を示しているに過ぎない点も注目される。今日における農協を取り巻く厳しい環境を生じさせた要因を問いかける姿勢すら見られないのである。
根本的問題とすべき対象は、一つは言うまでもなく農業政策である。安全性の不安や農産物価格下落の問題を引き起こした野放図な農産物輸入拡大政策、規制緩和と市場原理推進を促進させた金融政策などであり、系統農協の側からその政策的責任を明確化させ、それに対抗するという姿勢を示さなければならないはずである。二つめは、1990年代において系統組織内部ですすめられてきた農協合併や連合会統合などの組織再編である。合併した大規模農協において必ずしも経営的に良好な状態になっているわけではなく、連合会に依存しない農協独自の事業展開もかけ声のみで、ほとんど実現されていない。このことが、経営面とサービス面において、組合員の農協に対する不信を増長させていることは明らかであり、農協離れの要因にもなっているはずである。
「大会議案」では、こうした根本的問題を不問とし、具体的な戦略では、「選択と集中」という言葉に象徴されるように、効率化・収益化を最優先させたものに他ならないのである。
その具体的な問題点を、単位農協段階と全農段階に分けて考えてみよう。
2.農協の経済事業改革のあり方に関して
(1)直接販売事業の展開
「大会議案」では、「『生産者と消費者の接近』のための販売事業戦略の見直し」として、農協は市場出荷中心の販売事業の見直し、直接販売(「直売所や地産地消・地場産学校給食等を通じた消費者等への直接販売」、「地域の量販店・外食産業等への直接販売」、さらにJAグループを通じた「大消費地の量販店等への契約販売」)の強化・拡大をはかると提示している。こうした直接販売の展開は、農協の販売事業が実質的に集荷事業に等しく、販売先の開拓や選定などは経済連や全農依存が強かった点、および大消費地市場におけるブランド化戦略を中心とした産地づくりのため地場市場を軽視してきた点への反省としては重要な指摘であり、学校給食への食材供給は地場産農産物の理解を得る点できわめて大切な取り組みとして各地で注目されている。
しかし、ここで示されている内容のイメージは食品産業との契約取引に傾斜している面もあり、産地の主体性よりも食品産業側のニーズに応える販売戦略を強調しているように見ることができる。価格・ロット・罰則規定など、契約栽培の契約窓口を農協段階のみに任せるのは、交渉力・リスク管理の面で問題点も有していると考えられる。この点に関して最終的な「大会議案」では、組織協議案では述べられていなかった表現として「JAグループを通した」を書き加えている。これはリスク対応の上で連合会関与の必要性を示す妥当な修正とみることができる。また、卸売市場の機能は、地位が低下したとはいえ量的には主流であり、価格形成機能としても無視できない存在であることは言うまでもないことである。
農協が販売の主体性を有することは重要であるが、直接販売を強調しすぎることは、農協間・系統間の競争のみを助長し、国内産地のつぶし合いに帰結する可能性を有する。これは、「JAブランド」確立のため、農協に生産・加工・流通の品質管理を徹底させ、生産履歴を義務づける取り組みにおいても言えることであり、際限のない精査競争に陥る危険性を有している。有利販売による価格形成機能を、農協段階の販売事業のあり方にのみ責任を転嫁させるのではなく、協調による本来の共販メリットを示し、国内産農畜産物消費の重要性を訴える販売戦略が求められているのではないかと考えられる。
(2)生産資材の引き下げ
「大会議案」では農協の生産資材供給体制の変革の方向性を「生産者とりわけ担い手に実感される生産資材の引き下げ」としている。競争条件に応じた手数料設定、公平性確立のための大規模農家、法人に対する大口価格の設定、部会や集落営農を通じた一括購入の進めなどを示している。仕入れ方法も、地域実態に応じた弾力的な仕入れを実施し、農協域での物流合理化と同時に農協域を超える広域の拠点整備をすべきと提起さている。当初の組織協議案で述べられていたような、物流面での一農協一拠点体制以下への整備、農協独自の仕入れの必要性などの言及は修正され、「JAグループ全体を通じた効果的かつ有利な仕入れ」と付け加えられており、先の直接販売事業の部分と同様に、系統全体の取り組みという面を示す、表現上での揺り戻しが見られる。
農産物価格が全般的に下落・低迷している今日において、生産資材価格の引き下げは農業経営において重要な点であることは言うまでもないことである。しかし、ここで強調されているのは、担い手対策、公正性の確立という名の下、組合員の区別である。「報告書」では大口利用者メリットを示せないことが農協離れの要因であるとの指摘があるが、政策的には40万の担い手対策をすすめるにあたり、農協が生産資材価格を下落してくれたならば、安上がりに政策支援できるというねらいを垣間見ることができる。それに農協系統自ら追随する内容であり、これまでの協同組合としての自己否定にもなりかねない問題である。大口利用者に対しては、すでに実施されているが、利用方法に応じて奨励金として返していくことが基本であると考えられる。
また、生産資材価格の引き下げは、物流面と農協の独自裁量による仕入れにより可能であるという内容であるが、根本的問題はメーカーからの引き渡し価格であり、それを下げなければ実現できない問題である。それを不問にして、物流合理化や農協独自仕入れのみで引き下げを簡単に実現できるものではないと考えられる。さらに、農協の独自仕入れをすすめていると受けとめられる内容は、独禁法適用除外問題の関係から、なるべく全農利用に言及しないナーバスな対応とも見ることができる。系統全量利用の強制は、整促事業体制の遺物であり、もちろん言及すべきことではないが、有利取引のための利用結集を訴えられないのは農協運動として後退でもあると考えられる。
その他、営農指導の側面から見ると、物流合理化の極端な推進そのものにも疑問がある。迅速な受発注・配送システムが確立し、広域的な物流センターに組合員からの情報が集中することで、コストは低下するかもしれないが、農協が組合員の営農実態を把握することができなくなる可能性も有するからである。それで、組合員ニーズに細やかに応えることがきるのであろうかと考えざるを得ない。
(3)生活事業を中心とした外部化
事業の外部化は主に生活関連事業を対象に示されている。具体的には、生活購買事業(Aコープ)、SS(給油所)、LPガス事業については、競争他社に対抗する事業方式を確立する必要から農協内部だけでは限界があるとの判断で、県域あるいは広域化による別会社化等を含めた「外部化」を促進すると示している。生活関連事業では、次に述べる部門採算の徹底が象徴的に示されている部分でもあり、意図的に赤字部門として位置づける手法が用いられている。
農協の生活事業は、経済事業の中で営農に直結していない事業であるから、本来的業務ではないとの位置づけが今回の「大会議案」では貫かれている。しかし、組合員農家は生産者であると同時に生活者でもあり、農協はその生活を支える必要があるとの認識のもと、第12回農協大会(1970年)「生活基本構想」、第17回農協大会(1985年)「農協生活活動基本方針」が示されてきたのである。生活用品のノルマ的な組合員への販売促進が問題になるケースもあるが、安全安心にこだわった新予約共同購入運動や高齢者福祉活動など、女性を中心とした組合員参加の下で実績を積み上げてきている事例も多く見られるのである。それを、他業態との競争が激しく赤字が大きいからとの理由で、撤退あるいは外部化してよいとは考えることはできないであろう。
たしかに、別会社化は黒字化の実績を有するが、別会社化するに当たり、既存の施設・店舗を統廃合するのであり、収益の見込める所を集めて事業展開するのである。好転化するのは当たり前である。そのことが、本当に組合員のため地域のためになっているかを問題にしなければならないのである。
現在、中山間で高齢化した地域では、農協の食材配達事業が唯一の買い物手段という集落もみられる。また、移動コストがかかる人口過疎地域で、高齢者福祉事業に民間事業者の参入が期待できないところでは、赤字経営でも農協が取り組まなければならないことも想定される。そういったところが、採算のみで配達や福祉サービス料金の増加、または事業撤退を実施したならば、組合員の生活を農協が破壊することになるのである。このように、組合員生活の全般的なサポート機能として始めた農協の生活関連事業について、採算性のみで、事実上の撤退に等しい外部化を簡単にすすめるものではないと考えられる。
(4)部門採算の徹底
「大会議案」では、経済事業改革の進捗管理としての財務的な目標を示している。その基本的水準は、販売事業と生産購買事業については少なくとも「専属損益段階での収支均衡」としており、共通管理費配賦前の段階での採算黒字化であり、生活購買事業については、共通管理費配賦後の「純損益段階での収支均衡」としている。
この基準で2001年度集計した385農協についてみてみると、販売・生産購買事業で上記の条件をクリアできる農協は39.7%であり、生活購買事業では29.1%である(2003年7月8日付け『日本農業新聞』)。こうした面をみても現状ではきわめて高いハードルであるとみることができ、農協段階ではこれらの事業を中止せよと言うに等しい水準である。
部門別損益管理の必要性は従来より指摘されており、「経営分析調査報告書」も毎年作成されてきている。とはいえ、それは内部において経営改善への取り組みを実施するに当たり、現状の事業状況を数値化して分析をするためのものであり、それを一人歩きさせて、事業を継続するか撤退するかという判断に、単純に用いるべき性質のものではないと理解している。そもそも、その部門別損益管理の数値化も、共通管理費の配賦方法や総合的事業展開の相乗効果の反映がないなど、問題点を有しているのである。
全中が2003年7月に示した「「部門別損益計算書」作成の手引き(例)」においても、こうした問題が露呈している。共通管理費については、配賦基準を中央会として明確に示すことができず、それぞれの農協の経営判断ですべきと言わざるを得ないのである。営農指導事業分の配賦基準については、「農業関連事業に金額を配賦」と「(均等割+事業総利益割)の平均値」の両論併記としている。そして県中央会段階に判断を任せるという無責任さも示されている。ただし、ここで生活事業の指導費の配賦は、原則として認めないで生活事業の中で処理せよという一言が付け加えられており、先に見た意図的な生活事業つぶしが徹底されているとみることができる。さらに、事業の専門性に言及しつつ、共済の一斉推進の折りの手当配賦は事細かに示されており、農協の総合的事業展開による全体的相乗効果をいわば認めざるを得ない側面も示されているのである。要するに部門別損益管理そのものも完全に行うことはできないのである。
3.全農事業の展開
経済事業改革のもう一つの対象は全農の事業システムに関わることである。「大会議案」においては、統合連合として最も効率的な事業システムを農協に提供するため、県域・全国域の枠組みを払拭していくと示されている点が特徴である。つまり、県経済連の全農への統合がある程度進展した現状において、それを前提としたシステムづくり案が示されたことになり、これまでと大きく異なる点である。とはいえ、現状では、経済連や園芸連など県段階で独自の経済事業連合会を有する県、一県一農協体制の県もあり、そういった地域を無視した内容であるという問題点を有する。
ここでは、「大会議案」に示された方向と全農の戦略の整合性を中心に検討してみたい。
(1)販売面の補完機能
農協主体の取り組みを支援・補完することが全農の主な役割であると、「大会議案」に示された図から読みとることができるが、そのことは「報告書」でとくに強調されていた点である。販売面においては、農協の直接販売拡大支援、消費地と生産者・農協を結びつけるため、大消費地における量販店の総合販売などを構築すると述べられている。
とはいえ、全農の事業計画書を見ると、品目特性を踏まえた取り扱いの拡大を企図しており、全農安心システムや独自の牛肉トレサビリティーシステムの対象取引の拡大には積極的に取り組んでいく計画が示されている。つまり、農協段階に生産履歴の記帳などをすすめ、差別化が可能で、売れる農産物は全農が扱うが、あとは農協の責任で販売して下さいと述べているに等しい内容である。きわめて無責任な対応ともみることができる。
「大会議案」ではこの全農の二つの方向性、すなわち補完機能と独自展開をきちんと整理できているとはみることはできず、農協と全農を分断させ、系統内競争を助長しかねない内容である。また、全農県本部や県経済連など、販売事業に関連する県段階の組織の役割はほとんど無視されているかのごとく扱われている。これまで、農協と協力して県産あるいは農協産のブランド化、産地づくりに大きな役割を果たしてきた経済連や専門連の役割を全く認めていないかのごときとらえ方であり、この点も農協と全国段階の全農を分断させて、対立化させかねない問題点である。
(2)農協の経済事業改革支援システムモデル
「大会議案」では、農協の経済事業改革を支援するため、農協が外部委託した事業を中心に、統合組織としての全農が最も効率的事業システムを提供するため、物流、農業機械、石油、LPガス、Aコープ、生活購買事業について、それぞれの改革モデルを示している。それを整理すると、@物流:農協を超えて広域、A農業機械:農協・県域一体、B石油・LPガス:県域を超えた展開、CAコープ:広域会社化、D生活購買事業:(広域)協同会社による運営を基本、という内容である。
農協の判断に基づいて事業委託化した分野は、農協からみたら不採算部門である。それを全農が引き受けて効率的なシステムを構築することが可能であるかという点がまず疑問なところである。全農の計画書から見ると、生産資材については、「肥料・農薬」「農業機械」「その他」に分けて組み立てられており、肥料と農薬に関しては、県本部と一体となり、場合によっては生産者と直接取引し、農協を通さないモデルを構築する一方で、他の生産資材は全国域をスリム化させる案を有しており、採算性で事業展開に区別を加えていると読みとることができる。
このように考えると、「大会議案」と全農計画の整合性も問題ではあるが、お互いに不採算部門の擦り付けをしている点が最大の問題点であり、系統内の無責任さを露呈させていると見ることができる。
(3)全中による実践・推進体制の構築
農協系統の経済事業改革を3ヶ年で確実に実践するための実践・推進体制を構築するために、全国段階においては、すでに全中を中心に組織された経済事業改革中央本部による目標と行動計画の策定が「大会議案」において提示されている。これは、「報告書」においても述べられており、偽装表示事件を起こした全農よりも全中に強力なリーダーシップを発揮すべきと強調されていたことの実施化である。
さらに、「報告書」では、全農改革は「農協改革の試金石」と位置づけられ、全農改革がすすめば農協段階の改革も加速させるものと考えられるとしている。そのために農業者・農協・全中などが全農改革に積極的に関与し、確実な実行をチェックすること、行政も絶えず監視し、状況の改善が見られない場合は、より厳密な措置を講じていくべきと述べられている。
全農を悪者扱いにして、それを解体させて最も利益をえるのは、農業分野に参入を企図している財界であることは言うまでもないことである。その戦略に系統農協も乗せられ、農協、農業者、全中などが全農を対立的存在に位置づけていることは、農業関係者において必ずしも得策であるとは考えられない。こういった点においても系統内協調のあり方を考えていくべきである。
4.経済事業改革のあり方を考える視点
以上、「大会議案」をみてきたように、経済事業改革の内容で強調されている戦略は、「選択と集中」という言葉に代表され、事業を採算ベースで判断して赤字の事業分野は撤退するという事業のスリム化である。そのもとでは限りない経済事業の縮小化が行われ、組合員の営農や生活を支える機能は失われることになるであろう。どういった視点から経済事業改革のあり方を主張していくべきか、最後に三点ほどまとめておこう。
一点目は、組合員や職員の意向が尊重される体制づくりである。「大会議案」の中にも、「情報公開と組合員とともに考える仕組みの構築」、「経済事業改革の検討・実践にあたっては、組合員と共に考え実践するため、組合員・JAに対して情報を公表することを原則としていきます。」として、組合員とともに事業のあり方を考える必要性は述べられている。しかし組織協議案では、秋の大会までに具体的事業システム作りをすべきという滅茶苦茶なスケジュールのもと、組合員の意志の反映や組合員への理解などは、およそ得られないプランが示された。さすがに最終的な議案ではその部分は修正されたが、基本方向を示せということに変わりはないのである。こうした強引で一方的な手法をすすめようとすると農協組織は崩壊するであろう。時間はかかるかもしれないが、農協の経済事業改革の方向性を組合員の営農や生活、地域の視点からどうあるべきか議論する必要性を訴え続けることが重要である。また、そうした組合員の意志が反映される新たな組合員組織、職場内の意見が汲み取られる職員体制のあり方が新たに構築されなければならないのである。
二点目は系統内協調の方向性を示すことである。「大会議案」では、農協には徹底的に自己責任体制を押しつけ、赤字部門は外部化し、連合会などへ委託すべきと述べられ、全農にそれら委託分野を汲み取って統合連合会としての効率的システムをつくるべきと述べられていた。しかし、全農の計画では必ずしもそれと同様な方針ではなく、独自に採算ベースでの事業展開を企図していた。これらの点はお互いに、不採算部門を擦り付け合うという無責任な事業展開が問題なのであり、「大会議案」で示された体制が系統内競争をすすめるシステム構築を基本としているために生じていることなのである。系統内の協同関係が破綻することは、外部から農業分野に参入を企図している財界の思うつぼである。系統内競争を煽る採算ベースを最優先させた事業展開の方向性を見直し、系統内協調のあり方を示すことが必要である。
三点目は考える視点とはいささか次元を異にするが、労働組合への結集を図ることである。「大会議案」にもあるように、採算性をきびしく判断していくと、最終的には人員削減によるコスト低減に行きつくのである。全農で3000人、農協段階でも10%程度の削減案が示されている。残った職員にも目標管理が押しつけられ、それにより給与査定も仕組まれることになる。組合員へのサービス活動に従事することが、直接的には採算性に合わないという理由でマイナスの査定になりかねないのである。労働組合への結集が今まで以上に重要になるであろう。
W.経営健全化対策と組織基盤拡充対策
1.経営健全化対策と組織基盤拡充対策の位置づけ
本章では、「大会議案」における経営健全化対策と組織基盤拡充対策の位置づけを確認した上で、それぞれの問題点と課題を検討する。
すでに見てきたように、「大会議案」の中心点は、財界と政府が一体になって仕組んできた農業縮小再編・農協解体攻撃に対応する米事業改革を中心とした営農・販売事業の改革と経済事業改革にあり、本来、この三年間の実践をふまえて、新たな方向を打ち出すべき分野である農政や農村対策、組織強化などの基本的な課題は、位置づけがきわめて弱いものになっている。なかでも、こんにちの農協の危機的事態の基本的な要因となっている組織的くずれ・後退、協同活動の低迷については、その事態認識も、また対処方針もおざなりのものといわざるを得ない。また従来の「大会議案」の中心であった経営対策は、先の第22回全国農協大会で打ち出した「JA改革」を、その総括もなくただ断行することにその中心を置き、各課題におけるこれまでの延長線上での対策強化に終始している。
それは、「大会議案」の柱ともいえる重点実施事項に具体的に示されている。重点実施事項には四つの事項を掲げ、これまで分析してきた米事業改革、経済事業改革とともに、第三に経営健全化対策、第四に組織基盤拡充対策を挙げてはいる。しかし、その位置づけは、第一・第二の米事業改革と経済事業改革と、第三・第四とは明らかに違っている。いうまでもなく前者の事項は、総合規制改革会議・経済財政諮問会議等、政財界があげて改革を迫っている課題であり、全面的に方策が展開されているうえ、「JAグループの米事業戦略」ならびに「経済事業改革指針」の別文書も含めた詳細な方策にもわたった議案という形をとっている。それに対して後者の事項は、必要な課題を列挙した感をまぬかれず、方策自体もちぐはぐなものとなっている。
このことは、「大会議案」の重点実施事項をひき出す問題のとらえ方のあいまいさにも示されている。「大会議案」は、「TJAを取り巻く情勢」から「U取り組みの現状と課題」の整理をふまえて、「Vめざすべき方向」で、「今日的役割」「取り組みの基本姿勢」をひき出し、「重点実施事項」を位置づけている。大会議案の情勢分析、問題のとらえ方がきわめて薄っぺらなものなる傾向は今回も引き継がれているが、今回はさらに脈絡のなさをあらわにし、農政の転換への対応と経済事業部門の経営改善が不可欠なことを結論づけることだけに終始している。そのため、経営問題全体や、その本来の大きな要因である組織的な対策については、問題の指摘だけにとどまり、十分な分析や適切な課題を導き出すにいたっていない。二つの重点課題に懸ける「大会議案」の意図と同時に、本来の経営対策・組織対策の位置づけの弱さを露呈したものといえよう。
このように、その位置づけはきわめて弱く、またあいまいな面をもっているのが、「大会議案」の経営健全化対策と組織基盤拡充対策である。しかし、そこに含まれている個々の対策のなかには、これまでの効率化追求路線の徹底による組合員・職員選別の合理化方策など、組織・事業のさらなる後退を招きかねない方策も含まれている。そこで以下、本来の経営・組織対策のあるべき方向を視点にすえて、これらの問題点と必要な課題を整理する。
2.経営健全化対策の問題点と課題
経営の健全性・高度化の取り組み強化は、その必要性を、経営収支が景気の長期低迷を背景に、信用事業の利ざやの縮小、共済事業の保有高減少、経済事業の取扱高の減少等により、これまでにないほどきびしさを増してきていることに置き、いまの事態を、経済圏の広域化、農村の混住化の進展、組合員属性・ニーズの分化・多様化、あらゆる事業におよぶ同業他社との競争、金融と米の自由化などによって、数年のうちに事業利益段階で収支がマイナスになりかねない「再建整備以来の未曾有の危機」にあるという認識に立ってすすめるとしている。
この間の事業・経営の推移を見れば、たしかにその傾向は現象的には間違いない状況であり、こうした事態をもたらした一端が、「大会議案」の指摘する情勢の変化にあることもまた事実である。しかし、見過ごしてはならないことは、経営の危機的事態のもう一つの大きな要因が「JA改革」に集約される効率優先の組織・事業の再編が、組合員の協同活動の基盤をほり崩し、自ら組合員・地域住民の利用を切り捨て、組織的な結集の後退を招いてきたことにあることである。これまでと変わらず、その反省と総括ぬきに経営改善の手だてを講じようとしているところに、なによりの問題があるといえよう。
経営改善の取り組みでは、合併構想の完遂と統合連合組織の効率化・連携の促進、場所別・部門別収支の確立、事業の再構築・人員の再配置・自己資本増強、そして経営指導体制の連携・強化の四つを挙げているが、すべての農協が三カ年で実施する最重点事項は場所別・部門別損益の確立と、すべての事業の収支改善と財務健全化、事業の再構築・人員の再配置・自己資本増強に絞り込まれている。それは、「損益の把握・分析」→「業務の選択と集中」→「機能の集約化」→「施設・店舗体制の再構築」→「人員体制の見直しも含めた系統全体でのさらなる効率化」の論だてにすぎず、その方策はここまで農協の組織・事業・経営を結果的に後退させてきた選別的な縮小・撤退の方策そのものにほかならない。これでは、当面の収支の改善は図れたとしても、基本的な経営改善にはいたらないことはいうまでもない。
次に、経済事業以外の信用・共済・厚生事業の取り組み強化並びに中央会機能・組織の再編について、それぞれの課題を整理しているが、それは、経営改善の取り組みをJAグループ一体での対応という位置づけからのものである。これらに共通しているのは経済事業改革の方策にそった系統全体を通じた効率的な運営の名による単協と事業所の支店化、全国統合をより促進するものになっていることである。中央会については、全中・県中の一体的運営から事業・組織統合に向けてよりいっそう踏み込んだものとなっている。
第19回全国農協大会で連合会統合・二段階制を決議して以降のこの10年、広域農協合併と連動してすすめられた連合会統合は、共済連の一斉統合、経済連の段階的な統合、そして信連の「JAバンク」化による実質的な統合、中央会の機能統合と、事業分野のちがいによってそのテンポやすすめ方にちがいはあるが、現在、それぞれの分野の県域の組織・事業は実質的な解体に直面するまでになっている。そのことが単協をはじめ農協全体の事業・経営の後退をもたらす面をもっていることも否めない事実であり、ここでもその反省と総括が欠かせない。とりわけ一体的運営が、それぞれの地域性や条件を無視した展開を横行させ、組合員と地域の信頼を失い、期待に反する事態を現出し、利用の後退と組織的な後退・くずれを招いていることをしっかりと受けとめなければならない。事業・組織改革にあたっては、なによりも広域合併・連合会統合がもたらした組織的な後退をいかに克服していくのかが課題としてすえられなければならないといえよう。
経営管理体制の強化では、トップマネジメントの整備と役員の資格要件の整備、不祥事故防止システムの導入の三つを掲げている。相次ぐ食品偽装・不当表示事件や不正事件が後を絶たない状況から、役員の資質と理事会運営・理事の責任ある運営は、広域合併の進展にともなってますます強く求められている。とりわけ、現場の状況を十分ふまえた組織・事業運営をめざす姿勢がますます重要になっている。
しかし、営利企業の管理手法そのままの「経営品質向上手法」の導入や事業計画達成度合いによって役員報酬を変動させる制度の導入、常勤理事の資格要件の規定化、内部告発制度の整備など、掲げられている方策が、どれだけこれらの改善に役立つのか疑問を持たざるをえない。問題解決の基本は、組合員や地域の状態を十分ふまえた運営体制の保障であり、それを可能にする理事会運営をはじめとする組合員の手による協同組合的な運営であり、営利企業の管理手法を生かすことができるのはその土台が確立していてこそである。形式的な手法や制度の導入は、必要な根本的な解決にならないばかりか、これまでくり返してきた運営・経営と組合員の遊離と組合員の運営への不信を増幅することにしかならない。
経営健全化対策のもう一つの大きな問題は、職場と労務対策である。「活力ある職場づくりに向けた職員の意識改革」として、目標管理制度の導入徹底と活用充実、専門性を発揮する人事管理制度の構築、計画的な教育研修の実施、職場モラールの向上と活性化、ボランティア活動への取り組み、退職金・企業年金制度の整備・活用と新たな企業年金制度の構築を挙げている。労務対策については、先の経営改善の取り組みの項で、人件費水準の見直しを含む人員の再配置として三カ年で10%程度の雇用調整を目処としていることとあわせて、対策の掲げる「誇りをもって業務活動・地域貢献活動」を担い、「職場モラールの向上」と「専門性を高める」こととはまったく相容れないものになっている。すべての農協が三カ年で実施する最重点事項が目標管理制度の導入だけであることは、その意図を示している。事業計画内容を個人目標へブレイクダウン(細分化・具体化)して、事業計画達成への発揮能力の判断基準を明確にし、成果の人事考課・処遇への反映程度を高めるとしていることは、この間の各事業・組織の統合再編のもとでのタテ割りの管理の強化、事業推進をはじめとする「営業活動」の強化のなかで強まってきた仕事の数値化・マニュアル化をいっそう深め、その意図とは裏腹に、ますます労働意欲をそぎ、職場の停滞、組合員へのサービス低下をもたらすことは明らかであろう。
活力ある職場づくり・労働者の能力発揮に欠かせないのは、こうした管理の強化ではなく、いま決定的に欠けている、農協の組織・事業・経営の見通しを描いていくことをめざす経営姿勢とそのための方策であり、タテ割り・細分化された体制のなかですすむ