アピール

アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発した金融危機は深刻な世界同時不況をもたらし、新自由主義的な金融資本主義の破綻を明らかにしました。そのなかで日本は、昨年末の年越し派遣村の様子にも象徴されるような非正規雇用を先頭とする解雇、賃金引き下げ等で、内需を冷え込ませたままアメリカの過剰消費をあてこんだ輸出依存の経済構造を続けてきましたが、ついにそれが破綻し世界最大級の落ち込みをみせています。世界的な投機マネーの少なからぬ部分は日本からのものであり、農林中金の海外運用の失敗もその一環です。また昨年の世界的な食料危機に対しても、自給率が異常に低い日本は世界最大の食料純輸入国として大きな責任をもっています。

  その日本では中国製冷凍ギョーザの問題やミニマム・アクセス米等の汚染問題など輸入と政府責任に係る食の安全性問題が続出し、国民の低自給率への懸念、食の安心・安全への関心がかつてなく高まっています。政府はいま、食料・農業・農村基本計画の改訂作業を進めていますが、そこでは早くも食料自給率を政策目標から引き下げることも選択肢に入れています。

 戦後日本の農業保護制度の土台をなす農地法についても改悪が進められ、農作業に常時従事する者のみが農地の権利を取得できるとする農地耕作者主義を廃棄して、一般の株式会社等にも農地の賃借を認める案が自民・民主の妥協により衆議院を通過しました。農地耕作者主義が賃借について廃棄されれば、遠からず一般の株式会社等に所有権まで自由化させざるをえないことは目に見えています。

 今秋には第25回全国農協大会が開催されますが、その組織協議案は「大転換期における新たな協同の創造」をうたっているものの、「新たな協同」の中味は法人経営や企業と農協経営との「協同」を強調したもので、危機にある家族農業経営の協同の発展を軸に据えたものではありません。農協経営はついに減収減益に陥りましたが、相変わらずの信用共済事業への依存、「もう一段の合併」、単協・連合会を一体化する県域戦略等で、労働者へのしわ寄せを強める減収「増益」路線を強化しようとしており、協同組合としての農協のあり方が鋭く問われています。

生協は2千万人を超える組合員を擁した社会的な存在ですが、安全性を無視した低価格・効率優先の日生協路線に多くの批判と疑問が出されており、生協も地域のくらしと、組合員の立場にたった事業・組織のありかたが問われています。

 大きく変化する情勢のもとで、一方では事態を転換していく条件も生まれ、運動の広がりをつくりだしてきています。食料自給率の向上と食の安全を求める国民的な運動、食料主権・地域の食料と農業を守る運動、農協の民主化を求める運動などが前進してきています。遠からず総選挙が行われますが、われわれは、政権の維持か交替だけを争点にしたような政治の欺瞞にだまされることなく、内需依存型経済への転換、国民生活の安定、農業・食料政策の抜本的な転換を求めていく必要があります。

 本研究所は、1984年の設立から今年で25年目を迎え、その果たす役割と責任はますます大きくなってきています。しかしながら、農協合併等から団体会員が減少し、高齢化等から個人会員の減少も続いており、このままでは研究所活動を支える組織的な基盤を失いかねない状況にあります。このような状況を打開するため、すべての会員・会員団体・支部が全力をあげて会員の拡大、研究所活動の強化にとりくむ必要があります。

地域と職場に密着した支部活動の日常的な追求を基礎にすえて、生産者や消費者、労働者、関係団体の期待に応え、研究所活動を一層前進させることを、内外に心から訴えるものです。

2009年6月6日

農業・農協問題研究所第26回総会